TV、テレビ、自転車ときどきキッチン

Team 片手業・昭和の子どもの物語 小説、エッセイなど

小説 彼方のゆめちゃん  -15- 「竹刀」

第15話 「竹刀」 ゆめちゃんは近頃、みっちゃんや菊ちゃんなどが羨(うらや)ましく思える時があります。隆ちゃん、しんちゃん、みんなにおにーさんがいます。ゆめちゃんだっておにいさんはいるけれど、ずいぶん年が離れているので、おにいさんのような気が…

小説 彼方のゆめちゃん  -14- 「戦争ごっこ」

第14話 「戦争ごっこ」 隣の組内(くみうち)のもりちゃんのおかあさんは、ゆめちゃんのおかあさんと友達です。山向こうの辻のおばさんと三人は、昔、美人三姉妹とはやし立てられるくらい、仲がよくていつも一緒だったそうです。だから、子供同士も仲良しで…

小説 彼方のゆめちゃん  -13- 「勤くんが大将」

第13話 「勤くんが大将」 ゆめちゃんが初めて野球の試合に出る事になりました。試合が始まる前、みっちゃんと菊ちゃんとゆめちゃんの三人が、監督のかずひろさんに呼ばれました。野球は九回です。監督は「ひとり、三回」と言いました。打順は九番、ライトを…

小説 彼方のゆめちゃん  -12- 「チョコレート」

第12話 「チョコレート」 菊ちゃんちの前に共同の蛇口があります。蛇口を囲むように子供達が集まっていました。この日は、ゆめちゃんちで法事があり、親戚の人達が沢山集まるというので、菊ちゃんのおじいさんが鶏(ニワトリ)をさばいてくれています。ゆめ…

小説 彼方のゆめちゃん  -11- 「ひとりで映画」

第11話 「ひとりで映画」 今日も、ゆめちゃんには出番がありませんでした。野球の試合には勝ったけれど、ゆめちゃんや菊ちゃんには退屈でした。でも、みっちゃんは少しだけ出してもらえました。ゆめちゃんと菊ちゃんが肩を並べて帰ろうとしていると、「ゆー…

小説 彼方のゆめちゃん  -10- 「きんつり」

第10話 「きんつり」 夏休みになりました。ゆめちゃんにとっての夏休みは、みっちゃんや菊ちゃんが大はしゃぎする程、嬉しくはありません。それは、ゆめちゃんのいつも緊張する性質と関わりがありそうです。ゆめちゃんにとって夏休みは、文字どおり「夏の休…

小説 彼方のゆめちゃん  -9- 「お嫁さんが来た」

第9話 「お嫁さんが来た」 ゆめちゃんの周囲が落ち着きません。夕食を済ますと、おかあさんは隣の菊ちゃんちに出かけて行きます。時々、おとうさんも出かけて行きます。ゆめちゃんや近所の子供達も、どこか、気もそぞろな日が続いていました。ある日、夕食の…

小説 彼方のゆめちゃん  -8- 「道草」

第8話 「道草」 学校での事です。この日は担任の阿倍先生が出張で、午前中の授業が自習になりました。みんな大人しく自習していたのは、一時間めのなかばくらいまでで、すこしずつ、騒がしくなり始めました。あまり声が大きいと隣の組の先生が注意にきます。…

小説 彼方のゆめちゃん  -7- 「おねえちゃんのお客さん」

第7話 「おねえちゃんのお客さん」 日曜日の事でした。おねえちゃんにお客さんがありました。おねえちゃんはこの春から高校へ通うようになり、新しい友達ができたのです。おかあさんはお茶をいれたり、お菓子をだしたり忙しそうです。ゆめちゃんは気になって…

小説 彼方のゆめちゃん  -6- 「勉さんと勤くん」

第6話 「勉さんと勤くん」 ゆめちゃんが夕食前の時間を持て余していると、玄関の方が騒がしくなりました。そのうち、勝手口の外の路地でドタドタドタと、足音が響きました。そして、間をおかずに「つとむーっ」と言う叫び声と共に、ズタズタズタと騒がしくな…

小説 彼方のゆめちゃん  -5- 「お風呂」

第5話 「お風呂」 ゆめちゃんの家にはお風呂がありませんでした。そのかわり、近所に大きな共同浴場があります。小学校の運動場のような広場の縁に体育館のような建物があり、男の人と、女の人のお風呂があります。浴槽も大きな楕円形をしていて、真ん中で仕…

小説 彼方のゆめちゃん  -4- 「成績表」

第4話 「成績表」 この日、おとうさんは朝ご飯が終わると、ゆめちゃんに「ぺるのお家を新しくするぞ」と言いました。ゆめちゃんは、朝からおとうさんのお手伝いです。縁の下から古材を出してきたり、釘抜きで、釘の抜き方を習ったり、まだ肌寒いというのに、…

小説 彼方のゆめちゃん  -3- 「ペル」

第3話 「ペル」 ゆめちゃんはおにいちゃんが好きだけれど、あまり相手をしてくれません。そのおにーちゃんが珍しく、ゆめちゃんに「剣」を作ってくれると言いました。ゆめちゃんの目が輝きました。おにいちゃんは竹を切ってきて、枝を払うと、ゆめちゃんを物…

小説 彼方のゆめちゃん  -2- 「隣りのお姉さん」

第2話 「隣りのお姉さん」 ゆめちゃんのお家の左隣にお姉さんがふたりと、寝たきりの弟さんが住んでいます。蔦江(つたえ)さんと美佐子さんとマー坊です。マー坊は、ほんとうは昌夫さんと言います。蔦江さんは、若いのに、なり振り構わず動き回る働き者です…

小説 彼方のゆめちゃん  -1- 「記憶」

第1話 「記憶」 ゆめちゃんの最初の記憶は「おかあさんの膝の上」です。おかあさんが何をしていたのかはわかりません。柔らかい、春の日差しに誘われるように縁側に座り、ゆめちゃんを膝の上に抱いていました。ゆめちゃんは気持ちの良さに、時折、意識を失い…